河内温泉大学

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安福寺所蔵の聖徳太子棺(夾紵棺:きょうちょかん)が奈良・東京国博で展示

 今年は日本仏教の開祖と言える聖徳太子1400年遠忌にあたります。遠忌とは五十年忌の後50年ごとに遺徳を追慕して行う法会で「おんき」と読みます。
 聖徳太子(574~622)の祖父欽明天皇の時代に日本にもたらされた仏教は、蘇我氏(仏教派)対物部氏(排仏派)との崇仏論争のすえ争いになります。両派が武力でぶつかり合ったのが丁未の乱(ていびのらん)です。この戦には幼少にもかかわらず、既に仏教に帰依していた聖徳太子厩戸皇子)も参戦しています。戦下で、聖徳太子が「いまもし我をして敵に勝たしめば、かならずまさに護世四天王の、おんために寺塔を建つべし」(日本書紀)と祈願したといい、今の四天王寺がそれです。
 四天王寺

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 やがて聖徳太子が政治の中心人物なると、仏教も政(まつりごと)の中心となり広く浸透していきます。金銅製の仏像や仏具そして寺が全国に造営されていきます。また、玉虫厨子正倉院所蔵の仏教に伴う工芸品などの技術も大きく花開きます。「聖徳太子1400年遠忌記念特別展」では、1章聖徳太子と仏法興隆 2章法隆寺の創建 3章法隆寺とその東院 4章聖徳太子と仏の姿 5章聖徳太子と仏法興隆 の五部構成で仏教と聖徳太子のひととなりを展示されます。
 法隆寺中門

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  1章の聖徳太子と仏法興隆では重要文化財の「菩薩立像」と並んで展示されるのが、柏原市玉手山安福寺(大崎信宥前住職:ぎょくしゅざんあんぷくじ)蔵の「夾紵棺」断片です。夾紵棺とは7世紀に見られる天皇クラスにしか使われない高級な棺で、通常は麻布を漆で重ね合わせて作られています。しかし、安福寺蔵の夾紵棺は45層もの絹の織物を用いた極めて特殊な構造です。その幅は聖徳太子の棺台(叡福寺北古墳)に一致することから、専門家の間では聖徳太子の棺である可能性が高いと指摘されてきました。
 復元された棺(柏原市歴史資料館)

 

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 元々安福寺の床下にあったという夾紵棺を先々代の住職が見つけ、花台にと床の間に置いていた物を夾紵棺と判定したのが、昭和33年当時安福寺を宿泊所と使用していた関西大学大学院生だった猪熊兼勝氏(元京都橘大学文学部教授)です。近くの玉手山5号墳の実地調査に氏が来られていなかったら、今も安福寺の花台の一つに過ぎなかったのかも知れないと思うと、猪熊学生の柏原での古墳調査は1400年を繋ぐ歴史の結節点であったかも知れません。

 

 元花台の断片

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 さらに歴史は大きな結節点と共に課題を我々に投げかけている様に思えます。それは、なぜ聖徳太子の棺の断片と云えども、安福寺に在るのかという謎です。
 安福寺が一宇の寺から現状の尾州徳川家との深い関係のある寺へと変わっていく中に「珂憶上人」がおられる。珂憶上人は尾州徳川二代「光友公」の深い帰依を受け、菩提寺として光友一族の廟を設け、以来明治まで長く寄進を受けていた。また、珂憶上人は聖徳太子信仰にも篤く、四天王寺や叡福寺そして叡福寺の南にある西法との関わりは、人の往き来や寄進記録などでもうかがえるという。また、西法院の偏額は珂憶上人のもの。
 叡福寺と門前の寅1号

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 明治維新後、叡福寺北古墳(聖徳太子廟)を発掘調査されたときに夾紵棺の小破片が二斗出て来たと云います。

 叡福寺北古墳(聖徳太子磯長墓拝所)

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 お釈迦様信仰が「仏舎利信仰」になるように、聖徳太子信仰も形見としての「お棺」信仰へと向かったとしてもおかしくはないが、この辺りは専門家では無いので今後の調査に期待する所です。
 西法院本堂

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 4月27日から6月20日が奈良国立博物館。7月13日から9月5日迄が東京国立博物館で開催される「聖徳太子法隆寺」展の第一展示室に柏原市玉手山安福寺所蔵の聖徳太子の棺が展示されるというのは、一つの「快挙」であると思います。それが、日本史の中で不動の地位と尊敬そして信仰を集める聖徳太子の棺であり、大坂の陣後の日本を長く治めてきた徳川家の意向を受けた高僧の縁でもたらされ、後も同寺で長らく守られてきたという誇りであります。

 法隆寺 四天王寺の 結節点 安福寺には 珂憶上人 <偐山頭火