河内温泉大学

姓は車 名は寅次郎 人呼んで フーテンの寅と発します

歴代四作をパクったか 「贋作男はつらいよ」

 寅さんシリーズ第50作品『男はつらいよ お帰り 寅さん』の陰で「贋作」も作られました。公認も非公認も無い正真正銘の贋もの寅さんです。原作は勿論山田洋次で主役は桂雀々。マドンナ役には<高見歌子/松下奈緒>は第9作「柴又慕情」では吉永小百合、<ぼたん/田畑智子>第17作「寅次郎夕焼け小焼け」では大地喜和子が演じていました。NHKBSで1月に放送されました。
 ビデオ作品「あじさいの恋」と「浪花の恋の寅次郎」

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 作品は第9作「柴又慕情」、第29作「あじさいの恋」、第27作「浪花の恋の寅次郎」そして第17作「夕焼け小焼け」を合作した構成になっているので、シリーズをご覧になっていない方には展開と仕込まれている「ねた」が理解出来ずに消化不良を起こすと思われます。それでもあえて狙ったというのは、「岩盤支持層」を持つトランプか寅さんかと云う所でしょう。
 石切神社 原作ではこのあたりで芸者ふみと出会います お姉さんがかしまし娘でした

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 では、贋作「男はつらいよ」を少し語ってみましょう。
 箱根の旅館で番頭を務める寅、そこへ大阪から遊びに来ている歌子を含めた仲良し三人娘がやって来て例の「寅節」で心を掴みます。ハートで無いところが、乙女心と寅との断絶です。この辺り、まだまだ寅になれない雀々がお気の毒に見えます。「大阪へ戻ったら石切の団子屋「くるまや」へ行ってみたら。ここが俺の故郷よ・・・」と彼女たちを見送る寅。しかし、寅も里心に火がつき・・・では無く戻れば歌子に会えるかも・・・と30年ぶりに故郷石切へ戻る。(注1、27作では石切は浪花の恋の寅次郎が、芸者ふみと出会った場所です)
 駅までの参道

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 一波乱有って、文学者を父に持つ歌子は沖縄で海洋学を研究する学者と結ばれる。知識人といわれる層を恋敵に持つことの多い寅さん、いつもの展開ですね。叶わぬ恋の憂さ晴らしか、新世界の串カツ屋で飲んでいる寅の前に現れたなぞの老人。なんだかんやで、石切のくるまやまで連れ帰ることに。息子夫婦にいびられている、気の毒な老人だ・・・と寅の解説は原作「夕焼け小焼け」と同じ台詞です。旅館に連れ込まれたと勘違いしている老人は、日本画界最高峰にいるという「池之内青観」、原作では宇野重吉が演じ、息子寺尾聡が播州のとある役場の職員として出演していました。
 石切参道商店街看板 長いですね

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 くるまやに迷惑を掛けたと青観は一筆を寅に預ける。古書店に持っていったこの落書きが二〇万円(原作では五万円でしたらからインフレを計算済みですね)に売れて、寅はこれから遊んで暮らせると大喜びしてくるまやに帰るも青観は京都の自宅に帰っていた。家族に斯様な金は貰えないから返せと言われて青観宅に行くが、ここでお互いに持たざる何かを見出したのか意気投合。青観宅に泊まりこんでは祇園へ繰り出す・・・。青観の馴染み芸者がぼたんであります。(注2、29作あじさいの恋では鴨川沿いで老人を拾ったつもりの寅、人間国宝のその陶芸家の家に住み込んでしまう、そこで出会うのが「かかり」いしだあゆみ
 かかりとの悲しい別れの丹後伊根が舞台 あじさいの恋(左)

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 ぼたんが青観の娘かどうかで揉めた、寅は画家の家を飛び出してくるまやへ帰る。ここで、恐怖のワンパターンです。旅に出る・・・と家族に見送られて店を出た数歩先でぼたんに出会うと、Uターンしてこの子がぼたんと店へ何食わぬ顔で戻る。(注3、このパターンはしばしば使われています)ボタン曰わく客に欺された大金を返して貰うために大阪へ来たという。(注4、17作でもぼたんがとらやを拠点に蛸社長が奮闘するが、法律の壁に立ち塞がれてしまいます)奮闘するも金は返らず、心機一転ぼたんは介護職を得て知人の郷里北陸(鳥越の地名がありましたので石川県と思われます)で元気に働く。
 石切神社拝殿は何度も登場 この日は大樹の枝支えを作っていました

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 一方寅は「ぼたんの為に絵を描け」と青観にねじ込むが「それは出来ぬ」と拒まれる。失意の寅も旅に出るが、なぜか全作品を貫くポリーシー通り偶然にぼたんと出会う事になります。(注5、原作では寅は意識して播州を訪れています)再会を喜んだ寅とぼたんですが、ぼたんは寅に見せたいものがあると自室に連れ込む。そこで見たのが青観から贈られたという、ぼたんの母の絵です。ぼたんの母親も祗園で芸者をしていた、その芸者の若き頃の一枚の絵の前で喜び、慌てて面に飛びだした寅は京都の方向へ向かって感謝の御礼をするシーンでエンディング。(注6、17作では、播州龍野の醤油会社の煙突の間に立って同じシーン)
 龍野市旧街の醤油屋さん工場

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 第50作品の『男はつらいよ お帰り 寅さん』は興行的にはあまり芳しくなかったようです。封切り前に画家の横尾忠夫と「オマージュ」がどうのこうのとの行き違いがあって社会面を賑わせたのがいけなかったのか、岩盤支持層が動かなかったのか。私も未だ見ていません。と言うのはお化けか幽霊のような俳優が現在の画像に出てくるなんて、あまり頂けないですね。まして、映像権を持っているのだから何をしても良いと云うものでは無いでしょう。外国に住む著名な女優を連れてきて撮ったつもりが、その女優も賞味期限が過ぎていたと言うことかも知れませんね。
 

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 寅さんは、第1作品から第49作品の銀幕の中で観るのが一番活きいきしていて、脇も伸びのび演じていると思っています。でも、テレビ放映があれば一応「録画」はするでしょうね。と云う所で、本日はお開きとして「おばちゃん、朝飯にはアジのひらきだよ・・・お新香もね・・」と二階上がりましょう。